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君塚直隆『ヴィクトリア女王』

● 世界史で習ったあの女王様。エリザベス一世とくらべて「まーこの時代は、そんなに政治介入していないお飾りだろうなあ」としか思っていませんでしたが、そんなことはなかったのですね。19歳で即位、九人の子を産みながら(!)精力的に政務をこなし、マスコミの誹謗中傷やままならない政治家にも負けない女性君主。サブタイトルの"戦う女王"の意味がわかりました。うーん、まあ、政治家にとっては煙たかったでしょうね。

 それにしてもこの時代はなんともわかりにくい。ただでさえ見渡せば皆親戚の欧州王室。ドイツにもロシアにも親戚がいてどうこう。系図を見なければわからない。系図を見てもわからない。そしてヴィクトリアが血友病因子をもっていたことが、ヨーロッパ全体に影響をあたえることになったりするわけです。
 こうして錯綜する欧州に、日清のアジアが殴り込みをかけ、植民地は反乱を起こす。彼女ほどの波乱を歩むことになった君主もいないでしょう。

● "処女王"エリザベスと最大のちがいは、彼女には子供がたくさんいたこと。英国王室の子ならば安寧なだけの生活はありません。娘なら他国の王室に嫁いでさらに系図を複雑なものとし、息子は親の頭痛の種になる。特に皇太子バーティは女王からバカ扱いされていて、母子の確執が生じます。
 バーティちゃんは……確かにバカボン気質は垣間見えますが女王が思うほど、無能でも愚鈍でもなかったようですが。でもその子にまた困ったひとがいて、あの"切り裂きジャック"の容疑者になったほど。
 こうした子供や孫たちが結婚していく姿を見守る女王は、ただの母であり祖母。でも読者は彼らのうち何名かが銃弾や革命に倒れるその後を知っているわけで、読んでいて苦い気分になるわけです。教科書ではただの滅びた君主やその妻に過ぎない彼らも、その家族や絆を知ると実に気の毒に思えてきます。ただ生まれた時代がまさしく悪かっただけという人も大勢いるのに。

 やはり歴史はおもしろい、とうなずける好著です。

ヴィクトリア女王―大英帝国の“戦う女王” (中公新書)ヴィクトリア女王―大英帝国の“戦う女王” (中公新書)
(2007/10)
君塚 直隆

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