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S・ブラウンミラー『レイプ・踏みにじられた意志』

● レイプがテーマで著書が女性で、軽々しい本になるはずもないのですが、それでもずっしりと胃にもたれる一冊です。だいたい三十年前発表され、センセーションを巻き起こした一冊。
 まず古代からレイプがどんな意味を持ち、法律で裁かれたかを丹念にさぐります。
 古代処女とは財産であった。男性にとって「たった一人だけが日常的に使用できるワギナ」として取引されたとまず定義されます(ちなみにここから日本は除外したほうがいいと思う。日本の性的な文化や慣習は結構特殊。とんまつりにもなった"寝た男の数だけ鍋釜をかぶる祭り"とかがあるし、『源氏物語』なんかものすごく現代的な思考回路。つまり、この女の性体験ごと俺は楽しむぜというスタンス。源氏の大本命は処女をうばった紫の上や軒端の萩ではなく、父の女であった藤壷であり人妻の空蝉だったりするわけです。まあそれが色男の極致なんだろう、か……古代日本の成熟っぷりは異常)。つまり処女厨には「アンタは理屈を並べるけど、古代のまま脳みそが停止しているんだね、ふーんw」とカウンターをかますことが可能です。古代の女は財産でも、現代はちがう。古代に戻りたければスタバで男女が仕事の打ち合わせしただけで犯罪になるイスラム国家にでも永住したらいいじゃないと言ってやりましょう。
 あと「逃げるような男と寝て子供ができた馬鹿女はどうしようもない」という理屈にはコレ。
「ふぅーん、あなたのお母さんはどうしようもないよね。あんたみたいなロクデナシのもとになる種を受け入れちゃったんだからさ、超責任重大。あなたのお母さんがもしその夜、ゴム使っていればあんたの顔見なくてすんだのに、ほんと残念だわ」
(ここまで言うのはほんとうに下劣だし、いやなんだけどここまでパンチ入れたい言動はネット上でみ・た・ん・だ・よ)

 次に……「戦争とレイプ」の章は重たすぎて反芻できないほどキツイ……のでとばします。

 「権力――制度と権威」、「強姦者=英雄という神話」もきびしい。
 女性も読んでいて腹立たしいけど、男性もそう感じるのではと思います。輪姦というのはしばしば同調圧力、すなわち男の前で男らしさを証明するための行動だそうです。つまり、輪姦に参加するのを拒むと「アイツは女々しいぜ」となる。「据え膳を食わぬは男の恥」ということばにも、男は常に強く征圧者であれというメッセージがこめられているでしょう。局部のことをあそこまで気にして「男同士で風呂入るのがいやだ」なんていう男性はなんなんだ……と私は思うのですが、要するに人は異性に対してよりむしろ同性に対して見栄をはるものらしい(女性のダイエットもまさにそれ)。なんだか無駄で哀しいことですよねえ……。
 どこかで「男だって性的虐待の被害にあう可能性がある! 女ばかりが被害者ヅラしやがって」という論理を読んだことがあるのですが、女性が男性の性的被害を蔑むことはないと思います。『BANANA FISH』のアッシュや『ベルセルク』のガッツのように、むしろ親しみをこめて迎えられる可能性すらあるかもしれません。むしろそういう男性に蔑みの目をむけるのは、超マッチョズムにこりかたまった男性ではないでしょうか。「うそつけ、本当は楽しんだだろう」、「被害にあうなんてどんな弱虫だ」、と。男性の性的虐待問題を難しくしているのは、同性だと私は思うのですよ。

 次に「レイプの被害者たち」、そして「女たちの反撃」で女性側の視点にたちます。「レイプの被害者たち」はレイプを含め暴行殺人の被害者が"美化"されることについての考察。スウェーデンを舞台にした警察小説のマルティン・ベックシリーズにもありました。「殺人の被害者が女性だと、いつのまにか若く美しい女性ということになる」だったか。

 ともかくこれはヘヴィな一冊です。女性側の受難もさることながら、力の誇示を性的な能力で示す男性というのもこれまた不幸なものだと痛感。『BANANA FISH』で描かれていた刑務所内での同性愛などもととりあげられていますが、レイプとは結局性的な満足感を得るための行動と定義していては何も見えてこない。力の誇示や征服といった意味を理解しないとわからない。『クー・クラックス・クラン 革命とロマンス』では白人美少女(当然処女)が黒人に輪姦される場面がありますが、あれ以上に白人にとって「財産の侵害、屈辱」をしめす場面はないわけですよ。レイプの被害者はひとりの女性ではなく、共同体の財産として扱われることもあると。

 重たいのは確かですが、男女問わず読んで頂きたい一冊。

  まだ余談ながら、私はしかし変な男の理屈をふりかざす男性とはさほど出会っておりません。ただインターネットの悪いところは、妙で極端な理屈を見てしまうことがあるわけで。ここで怒っているように見えるのはまあ、そんなところです。実際にあった人は父親筆頭に、みなほんとうによくできた人だなあ、いろんな意味でと感服しています。
 で、男として生きることもいろいろ苦難があって大変だろうなあ、と思ってマス。

レイプ・踏みにじられた意思レイプ・踏みにじられた意思
(2000/05)
スーザン ブラウンミラー

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 余談。以下金庸迷は読むなよ? いいか、絶対な。
 個人的にはひどいレイプシーンがある小説は別に腹が立たない。深町先生のものしかり、『氷と炎の歌』しかり。むごたらしいレイプは実在するから。ムカつくのはレイプされて喜ぶ女とか、くだらないありえないファンタジーを描いているもの。しかもポルノじゃなくて一般小説だと怒り倍増ですな。
 そんなわけで『神雕侠侶』ほど腹立たしい小説はないと思ってマス。小龍女のレイプシーンも最低だけど、女の行動や性格や動機づけにいちいち「処女だから」とか書かないで欲しい。あれはつきつめれば主題は「処女」であり、「小龍女みたいな超絶いい俺の嫁は、非処女でも萌えるハァハァ! でもそれ以外の美少女は皆処女のままでいてください」というのを感じるんですけど……あのねー、小龍女の貞操をいつまでもウダウダ書きすぎ。だいたい彼女、レイプされても行為自体に苦痛をおぼえずに、むしろ第一戦から興奮しまくってるじゃない(しかも目隠しプレイで)。おわったあとで本質的な部分の変化もないじゃない。ちょうどいい男に出会ったら楊過なんかしらないとか言ってホイホイ結婚しようとするじゃない。それを撤回するのも花の毒が回ったとかすったもんだのあげくでだよ? 正直あの恋愛はケータイ小説並にありえないんだよね。

 金庸先生のセクシュアリティはあんまりつっこみたくないけど、『鹿鼎記』は要するに「七人の美少女と結婚! しかも一晩で複数妊娠させちゃうんだぜ」というハーレム小説であまりにあからさまになりすぎて本人が「まずい、このまま執筆活動を続けると己のリビドーが江湖にばれる!」と断筆したんじゃないかと邪推しまくってます。だっておかしいじゃん、あれだけ処女童貞の清い恋愛だけを描いてきて、最後のあれだけ異質すぎるよ! 皆金庸なのだからつっこまないけど、『神雕侠侶』と『鹿鼎記』の下劣さは尋常じゃないよ(しかも『鹿』ってなんかコメディみたいな扱いなんだよな、ギャグもすべりまくっているけど)。そんなものに突っ込み入れる中国当局も相当おかしいんですけれども。

 ……古龍先生も『マーツイ』でそのへんの感覚が出てきて、「あー、古龍先生でもやっぱそうなのか」と結構哀しいものを感じました。

*Comment

くぼたさんはいいひとだなあ 

こういう書きにくい記事にコメントつけてくれてありがたいことです。
私個人としては、本能でつきつめれば男は権力もってナンボでもそんなないと思っているんですね。でも男なら天下とったるとか、いい女抱いてうまいもん食う……そういうのを唯一命題とする歴史や土壌がある。
娯楽を規制したところで、そういう歴史的な背景や性別のやくわりを定義してしまうとなると、やはりなくらないだろうと思うんですよね。
ただし今は昔より本音出しやすい時代ですよ、据え膳云々なんて時代がかっていると思われる。ずいぶんよくなっているなというのが私の実感です。
……そのかわり愛しているならと迫るケータイ小説みたいなのもあるが。
  • posted by 吉梨(管理人) 
  • URL 
  • 2008.12/23 01:32分 
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NoTitle 

色々考えていましたが、男の願望の一つに「性的な局面で権力をふるいたい」というのがあると思うんですね。
ハーレムには「一対多ができる俺tsuee」があり、独占欲には「その他大勢として扱われたくない」があり、共有には「多対一なら安全に権力をふるえるんじゃない?」というのがある。(私にも独占欲はあって、ある女性にその他大勢扱いされながら愛されるというのは、いずれ心理的に耐えられないだろうと思います)
何でそんな権力志向なのか、権力的でなければいいじゃない、と思うのですが、人間デフォルトだと権力的に振る舞わない人は権力的に振る舞う人に駆逐されるので、どうしても権力的に振る舞うべきだという命題が生き残りやすいのかも知れません。
もちろんそれでは皆幸せになれないので、「嫌がることを人にするな」という倫理が出てくるのですが、どうしても権力が倫理より先に顔を出してしまいますね。
じゃあどうすればいいかというと、権力志向を表に出さないでいい世の中にする、または権力志向を笑いのネタにできるほど成熟した娯楽文化を作る、とかそういうことになってしまいますね。あまり性や暴力や権力にベタであるような娯楽はいい娯楽ではないのかも知れません。
  • posted by a-kubota 
  • URL 
  • 2008.12/22 21:59分 
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