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大塚ひかり全訳『源氏物語1』桐壷〜賢木

● 『源氏物語』は絶対に古文で習うはずで、そこでつまらないと見向きしなくなるひとも多いでしょう。私もでした。なんかエロくて所詮恋愛物語じゃーん? そんなかんじ。一応『あさきゆめみし』であらすじは知っていましたが。

 しかし諸事情から古典を再勉強する必要があったり、大塚ひかりさんの著書をブログ拍手ですすめらたこともあったりして、俄然ハマリだしました。
 そして参考書を読みあさり、万全の準備を整えて読み始めた本書。もう目からウロコが落ちるのはこのこと、めっぽうにおもしろくて胸がどきどきしています。コミカルなやりとりではニヤニヤするし、切ないところやオカルトじみたシーンは月並みながらこれまた胸がきゅっとして。

● 紫式部は絶対無比の大天才だと、思いました。ただし性格は難があっただろうな、そうでなければここまで人間真理をえぐり解剖するような真似はできません。
 何がすごいって、光源氏がサイテーだけどサイテーともいいきれないところ。彼は身勝手で、エロくて、ともかく色好みのことばかり考えているわけです。でも絶世の美男子でセレブ、だからモテるかというと……そこが「必ずしもこの男の思うとおりにならないんですよ(笑)」と書いてしまうのが凄い。最近ネットの一部では「ただしイケメンに限る」とかなんとかいうフレーズがあり、「女なんてイケメンに口説かれたら靡くんだろ〜」みたいな話ですが、ところがどっこいそうじゃない(ananの抱かれたい男ランキングも、実は女の八割は「キムタクとかないわ」と思っているだろうな〜、絶対普遍的な理想の男なんて存在しないんだっつの。青年漫画なんかではそういう男と女がよく出てくるが……)。
「こんな調子にのっている光源氏だって、失敗するのよ〜」
 といういやあなニヤニヤ感に思い切りハマってしまって、意地悪な読み方をしてとても楽しんでいます。手に入った女はどうでもよくなるけど、逃げる女は追いかけるとか、すぐ手紙に返事を寄越す女はなんかどうでもよくなるとか、永遠普遍の真理みたいなものも興味深いです。この物語が古くさくなることは、未来永劫ないでしょう。

● そして本書の特色が「ひかりナビ」。ひかりさんの訳文はぶっちゃけてはっちゃけていて、よくもわるくも小説家ではなく、エッセイストのものだと思います。するっと頭に入ってくるけど、"イケメン"とか"ラブラブ"という表現はいずれ古くさくならないかチト心配。といっても、「ひかりナビ」だけでも新たなスタンダードとなる可能性を秘めています。
 「ひかりナビ」は要所要所で隠された意味をときあかすいわば注釈。ちょっとした言い回しにいろいろな意味、特に性的な暗喩がこめられていて、古文で何が楽しいってこういうのをときあかすオタク的な部分なんですよね。で、そこはやっぱり高校までではなかなかときあかせないわけです。下手な官能小説講座なんてものより、これのほうがずっとずっと色気のある文章を書くには役立つだろう、すごいなあ……と読んでいて感動、感動、また感心といったところ。

 ともかく続きが楽しみです!!

 そうそう、サイテーだけどサイコーということで、光源氏と『ヴァンパイア・クロニクルズ』のレスタトってちょっと似ているかも、と思いましたよ。あの身勝手さとか、そこが魅力的なところなんか。完全無欠の美男子なんて魅力ないよ、どこかマヌケじゃないと!
源氏物語 第1巻 (1) (ちくま文庫 お 39-4)源氏物語 第1巻 (1) (ちくま文庫 お 39-4)
(2008/11/10)
紫式部

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